この呼び名は、20代の頃読んだソルジェニーツィンの小説「癌病棟」から来ています。
ソルジェニーツィンの小説は、収容所や病棟などが舞台ですが、読んでいると自由に暮らしているはずの私たちと何ら変わりがない。こういう人もいるな・・と。かけ離れた世界の話ではないのです。

その主人公オレークが癌という病の中、思いを抱くのが看護する女性。真正面から見つめることもなく、心の内で「カモシカの足のヴェガ!」と呼びかけます。
最後に少し病状が上向いたのをきっかけに、オレークは病棟を出て故郷へ帰ろうとするのだったと思います。その前に彼女の家に寄ることを約束する。

けれども彼はぐずぐずとあちこちを回り、結局彼女の家には行かないのでした。
胸の内を巡るのは、この世での自分の立場・状況。彼女を幸せにできるのか・・。

この物語に出会った私の胸の内に彼の切ない思いは灯り、ずっと瞬き続けていました。
美しいものを思う心、それをつかむのを躊躇する思い。彼の訪れを待っている彼女の思いも含め、「ヴェガ」という呼び名は消えなかったのです。

ソルジェニーツィンの小説には曲名が出てきます。
音楽は見えない手のように心の内に感動を送ります。どんな情景の曲なのか、いつも期待に満ちて耳を傾けたものです。